例えば、こんな始まり方
「僕、写真うつり、悪い・・・」

と、撮った写真をみせてくれる。そんなことない、普段の純一だ。

「かっこよく写ってるよ。さぁ、履歴書書いて。私にも見せてくれると嬉しい」

今まで純一がどんな生活を送ってきたのか・・・ミステリー、だから。

「うん、分かった。でも、書いているあいだは見ないでな」

「分かってるって。洗い物と洗濯をしとくわ」

夕食後の洗い物をしながら、洗濯機を回して、干して・・・。そのあいだに、純一は履歴書を書き終えたようだ。

「見せて」

と言うと、素直に見せてくれる。

小学校、中学校時代は、世田谷区の学校、そのあと、大阪の高校、大学に進んで、ファミリーレストラン「ジョイ」で、キッチン勤務。趣味、特技 料理。

「・・・プロだったんだ」

「プロ、って言ってもファミレスだから、ソースとかはパッケージを開けてかけるだけだよ」

納得した職ではなかったのか、純一はちょっとむっつりする。

「姉のカフェは、イチから作るから、その点では満足行くかもね」

心からの嬉しそうな笑顔をみせる純一。

「ありがとう、真由」

「まだ、受かったって決まったわけじゃないんだからね・・・それから、一緒に住んでることは絶対に秘密」

「ラジャー」

「友達いない、って言ってたけど、小学校、中学校時代の友達はいるんじゃないの?」

「全然、連絡とってないから・・・」

「そっかぁ。でも、これで、なんで関西弁が出ないのか分かった。大阪ボーイなのになんで、って思ってたんだ」

「大阪の友達と話すときは、関西弁全開やでぇ~」

「ふふっ、そっか、そっか。明日、17時に面接だから、ちょっときちんとした服を買いに行こう。お金は、貸してあげる」

「いいのか?」

「決まれば、お給料も入るでしょうし」

「サンキュ、真由」

・・・と言って、抱きつく純一。

「こらこらっ」

なんだか、犬にじゃれつかれてるみたい、と思いながら、たしなめる私。ちょっと、ドキドキする心を一生懸命否定しながら。

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