With you~駆け抜けた時・高1 春&夏編~
これでやっとツーアウト。ここを2点で凌げれば、まだまだ反撃のチャンスがある。そして、次のバッタ-はサードゴロ。やったと思った瞬間、私たちは凍り付く。ゴロは綺麗に松本くんの股間を抜けて行った、絵に描いたようなトンネル。3塁ランナ-は手を叩いてホームイン。


「だから言ったでしょ、あのサードは絶対にまたやるって。」


相手ベンチで小林雅則が笑っている。ショックが冷めやらないまま、次打者にもヒットを打たれ、とうとうこの回4失点。立ち往生する白鳥くんに俯く松本くん、同級生2人の姿に、私は胸をつかれる。


「やっぱり1年生には荷が重いよ。」


先輩の声が聞こえて来る。普段ならこんなことを言われて、黙っていないはずの佐藤くんも、さすがに今は何も言えない。そして更に続くバッタ-にヒットを打たれたところで、監督が


「佐藤、伝令だ。」


と声を出した。白鳥くん交代か・・・この流れでは仕方がないと思った私の耳に、監督の意外な言葉が聞こえて来た。


私は驚いて監督を見る。私だけじゃない、他の選手達も。


「それでいいんですか?」


指示を受けた佐藤くんが思わず聞き返す。


「行け。」


監督は一言言う。その言葉に佐藤くんがベンチを飛び出す。そして場内アナウンスが流れた。


「明協高校、選手の交代をお知らせします。ファースト澤田くんに代わりまして、キャッチャ-村井くん。キャッチャ-の西くんはそのままファーストに入ります。」


ピッチャ-ではなく、なんとキャッチャ-、守りの要であるキャプテンの西さんを交代させるというのだ。このアナウンスに、明協応援団からは、当然驚きの声が起きる。


私たちも驚く中、キャプテンはベンチに戻って来て、キャッチャ-の装備を外すと、遅れて戻って来た澤田さんとハイタッチを交わして、ファーストのポジションへ走る。


そしてそれを追うように、村井さんが装備を付け、マウンドの白鳥くんのもとに向かう。


ついにこれで、グラウンドにはキャプテンとライトの東尾さん、3年生はこの2人しかいなくなってしまった。どよめきが収まらない中


「ツ-アウトだ、締まって行こう。」


キャプテンがみんなにそう告げ、ポジションに散る。村井さんもマウンドを降りかけて、ふと振り返った。


「ありがとな。」


「えっ?」


戸惑う白鳥くんに


「まさかキャプテンが卒業する前に、公式戦に出られる日が来るとは思わなかった。お前のお陰だ。」


と言って、笑い掛ける。


「村井さん・・・。」


「そろそろ本気出して、行こうぜ。」


そう言って、またニヤリと笑うと、村井さんはマウンドを離れた。
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