桃色のアリス

「アリス」

ゆっくりと動いた赤い唇。沈黙を破ったのは意外な言葉だった。

「お誕生日おめでとう」

ぽかんとすると、今日は私の城にきてからの日から数えた、十四回目の年。一ヶ月前まではパーティーで踊るダンスの練習に明け暮れるくらい楽しみにしていたのに、一休憩にと数日のんびりしていたら、すっかり忘れていた。

「あんた、今日自分が誕生日だって忘れていたでしょう?」

女王様が自慢気な顔をしてにやりとさせる。

む、何か悔しい。

「そ、そんなことないよ! 覚えていた、もん」

意地を張って見せると、女王様はふっ、と笑った。

「意地っ張り。嘘つきは牢屋にぶちこむわよ」
「うう!」
「このあたしに嘘つくなんて百年早いのよ。全く、何年一緒に生活していると思っているのよ」

そう。女王様は私を拾ってからというもの、不器用ながらも私の面倒を見てくれた。女王様にとって子育ては初めてで、ほとんど城のメイドさんがお世話してくれたのだけれど。

私が小さい頃は頻繁に部屋を覗きに来て、公務があったとしても、私を側に置いて見ていてくれた。だから私の嘘なんて、すぐに見破れる。分かっていても悔しいから意地をはっちゃうけど。

「ふん。分かったなら、さっさと着替えて準備しなさい。パーティー開演は十八時からよ

照れながらも女王様はそう言った。

「うん! じゃあまた後でね」

歩き慣れた城の廊下を再び歩く。歩いて、嬉しさと反面、不安が胸に渦巻き始める。

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