桃色のアリス

“アリス”の使命

どうして私なんだろう。何で私が選ばれたんだろう。私の名前がアリスだから?

ウサギを選ぶってどうすればいいの?

私はただ時計を止めるだけ?

この世界の為に消えていくウサギの気持ちは――?

「アリス。前、危ないよ」

気が付くと目の前に柱があった。ぶつからないように、誰かが私の肩を掴んでくれている。

「考えすぎも良くないよ」

肩に置かれていた手が退き振り返ると、フードを被ったチェシャ猫の顔があった。

「アリスは危なっかしいね。目が離せない」

かぁっ、と顔が熱くなる。女王様や城の兵士達にならともかく、今日初めて会ったばかりのチェシャ猫に恥ずかしい所を見られてしまった。

「えっと、これはその」
「分かっているよ。君が悩むのも無理ない。戸惑っているんだよね?」

でも、とチェシャ猫が付け加えた。

チェシャ猫は私の気持ちに気付いている。

「今は無理して考える事ないよ。今日は君の誕生日なんだからね」

さっきの話を聞いていたのか、チェシャ猫が私の頭を撫でる。たしかにチェシャ猫の言う通り今日は私の誕生日。

「ありがとう。楽しまなくちゃ損だよね!」

チェシャ猫はうん、そうだね。と言って笑った。勿論見えたのは口元だけだけど。

「じゃあ、気を付けて部屋に戻るんだよ」

「だ、大丈夫だよ! あっ、チェシャ猫もパーティーに来てね!」

手を降って、赤と白の廊下を駆ける。角を曲がる瞬間、飾ってある鎧の隙間からチェシャ猫の立っていた場所を見ると、やっぱり姿は消えていた。

突然現れたり、消えたりする、口元だけが笑みをたたえた顔の見えない不思議な猫。優しい声や手が、どこか懐かしく感じさせる不思議な青年。その不思議な猫は、私に先程までの気持ちが嘘みたいに、ワクワクした気持ちを戻してくれた。

ドレスは何を着ようかな? ご馳走は何がでるんだろう? アリスの使命も大事だけれど、せっかくの自分の誕生日。女王様がパーティーを開いてくれる。今だけは、楽しまなくちゃ。



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