堕とされて、愛を孕む~極上御曹司の求愛の証を身ごもりました~
「いただきます」
どんぶりを持つと、胸のすく三つ葉の香りがふわりと鼻腔をくすぐった。箸を手に取り、ふわふわの卵と鶏肉、ご飯を一気にすくい、口に運ぶ。
「……おいしい」
ぽつりと呟くと、それをきっかけにしたように、目からぽろぽろと涙がこぼれた。そんな私に母はなにも聞かず、ただ優しい眼差しを向けている。
私はテーブルの上にあったティッシュで涙を拭い、ついでに鼻もかんでから、今の志門さんの状態について母に伝える。
「志門さん、ね……」
「うん」
「……忘れちゃったの。私のこと」
「えっ?」
いざ口にするとますます切なくなり、嗚咽を漏らしながら私は続ける。
「脳はなんともないのに、記憶障害が起きていて……私のことだけ、覚えていないの」
今朝一度顔を合わせた時、彼の中で私たちの出会いはなかったことになっているのだと、戸惑いに揺れる薄茶色の瞳が物語っていた。
ウィーンでも東京でも、いつも彼は私を見つけてくれたのに……今は目の前にいても、彼は私を見つけられないのだ。
一番つらいのは彼自身だと頭ではわかっていても、弱音を吐かずにはいられない。