愛を贈りたいから〜これからもずっと〜
結局、ようやく患部の状態がよくなって来たのは3月末。既にプロ野球のシーズンは開幕していた。


よくなって来たとは言え、まだ回復半ばの俺はとりあえず、キャッチャーとしての復帰を目指すことになった。もちろんキャッチャーとて、ボールを投げなければならないが、それでもピッチャーとはその頻度は比べ物にならないから。


そして、チームも苦境に立っていた。野崎新監督を迎え、意気上がるはずの新生Eだったが、開幕出足から躓いてしまったのだ。


エースの佐々木さんがケガで開幕に間に合わず、俺の同期の川上が2年生ながら開幕投手を務めたが、やはりまだ荷が重く完敗。モタモタしているうちに守りの要であるレギュラーキャッチャー醍醐晋作(だいごしんさく)さんまでが、ケガで戦線離脱。


選手のやり繰りに長け、その手腕に「マジック」との異名を奉られる野崎監督だが、相次ぐ主力選手の戦線離脱に


「これじゃ、マジックの揮いようもないわ。」


とボヤくしかなかった。


「塚原は何をやっとるんや?」


と周囲に嘆いているとの話も伝わって来た。せっかく監督に期待され、ピッチャーとしてもキャッチャーとしてもチャンスが転がっているにも関わらず、指をくわえて見てなくてはいけない今の状況が、我ながら情けなく、そして辛い。


そんな自分の現状と比較して、順調なあいつが妬ましいなんて、絶対に思わないけど、正直焦る。


(これじゃ、あいつを迎えに行くどころの騒ぎじゃねぇよ。)


とにかく、まずは二軍で実戦に復帰しなきゃ話にならないのは確かだった。


「ツカ、GW明けを目処に実戦に戻れるように調整しろ。出来るな?」


「もちろんです。」


キャッチャー担当の新田正男(にったまさお)コーチからそう言われて、俺は力強く答えた。答えるしかなかった。
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