愛を贈りたいから〜これからもずっと〜
それからの私は、6月の展示会に向けての準備と打ち合わせ、サンプル作りと手直し。そしてもちろん、デザイナ-のメイン業務である新商品のデザインの考案と慌ただしい毎日。


でもいわば小間使いに過ぎなかった昨年の今頃と違い、少ないとは言え、自分のデザインした商品があるという現実。仕事に対する責任感も充実感もまるで違う。


そんな私の横で、陽菜さんの顔色は冴えない。春夏物の動向が、計画を下回っているらしい。平賀さんに呼ばれ、何やら深刻な表情で話して姿を見かけることが何度もあった。


「厳しいな・・・。」


平賀さんと話を終え、デスクに戻って来た陽菜さんがため息交じりで、そうつぶやく。


「今季の商品は、全般的に苦戦してるんだけど。私達のレディスヤングカジュアルラインが、特に厳しいんだ。」


「そうなんですか。悪い商品とは思えませんでしたけどね。」


この春夏商品のデザインには携わっていない私は、そんな感想を述べるしかない。


「私の頭を一度切り替えなきゃ、ダメかな?ここんところ女子ヤンカジュは完全にダウントレンドだって、平賀さんにも叱られちゃったし。」


「盛夏物の需要はこれからですし、まだ取り返せますよ。」


「そうだね。展示会は近いし、前を向いて行かないと。」


商品が生産され、店頭に並んでしまえば、もう私達デザイナ-に出来ることはなくなる。今の私達に出来ることは、次のシ-ズンに向けて、いいデザインを考案することだけだ。


そして、迎えた展示会当日。ウチの商品は、親会社の系列ショップをメインに、百貨店でも展開される。この日は、実際に商品を販売するショップの人はもちろん、業界やメディアの関係者も訪れ、その反応で商品の生産数が決まって来るのだ。


私は自分の担当した商品のデザインのコンセプトや着こなし方などの説明を、無我夢中になって繰り返した。あっという間に時間が過ぎて行く。
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