愛を贈りたいから〜これからもずっと〜
俺が陸上選手から徐々に離れ、ピッチング練習を再開出来た頃には、プロ野球のシーズンは一軍も二軍も開幕していた。


そして4月の声を聞いてからまもなく、俺は小谷さんから先発登板を言い渡された。


「えっ、先発ですか?」


俺は二刀流だったこともあり、大学時代、リリーフ登板が多く、先発の経験がほとんどなかった。


それが二軍とは言え、プロ初登板がいきなり先発だから、驚いたのだ。


「なんだ、不服なのか?」


「とんでもありません、ありがとうございます!」


俺はコーチに最敬礼していた。


(これは思わぬチャンスが巡って来た。)


コーチと別れた後、俺は思わずニンマリしていた。


実は今月末に、対BS戦の為の神奈川遠征がある。曜日はちょうど金土日の週末。故郷に錦を飾りたいというのは、建前の話。


その遠征メンバーに選ばれれば、出番があるかどうかはともかく、3日間の泊まりになり、由夏に会える。


覚悟はしていたが、ホームシックならぬ「由夏シック」はかなり深刻になりつつあった。


と言って、由夏の方も、就職間もない時期で、俺を訪ねて来る余裕なんかとてもない。


なんとしても、メンバーに潜り込みたいと思っても、陸上部員じゃ話にならない。そう思っていた矢先のチャンス到来。


俺ははっきり言って下心一杯で、マウンドに上がったが、大事なデビュー戦に、そんな心持ちで臨んで、罰が当たらないわけがない。


結果は3回保たずにKO、ホロ苦デビューとなった。降板する時は、ポンと尻を叩いて励ましだか慰めだかしてくれた小谷さんも、後でベンチ裏で


「アホ!」


の一言。どうやら、俺の下心など、先刻お見通しだったらしかった。


当然メンバーになんか選ばれるはずもなく、やっぱり期待していたらしい由夏からは


『やっと会えると思ってたのに・・・。』


との恨み節LINEが・・・。


『すまん。』


俺はそう返すのが、精一杯だった。
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