悪役令嬢はラスボスの密偵として学食で働くことになりました
 ゲームと状況はまるで違うが、今まさにオランヌとの出会いイベントが進んでいるカルミアは冷静に状況を分析していた。

「今日は噂のカレーと、貴女に会うのを楽しみにしてたのよ。てことで、あたしはこないだ食べ損ねたカレーにしたわ。もう学園はカレーの噂でもちきり。危うく流行りに乗り遅れる所よ!」

 まるで親しい友達のように話しかけられる。
 彼らのためにもと張り切っていたカルミアは、攻略対象であるオランヌにそう言って貰えたことで報われた気がした。
 
「私はパスタにしたんですよ。カルミアさんのパスタを食べるのは初めてなので気になったんです」

「この人ってば、本当にカルミアの料理がお気に入りなのね。カレーだってもう食べたんでしょう? あたしのことも誘いなさいよね!」

「貴方は実習中だったではありませんか。校長として無理な相談です」

「そっけないんだから……」

 呆れたようにオランヌが肩をすくめる。けれどなんだかんだと言い合いながらも二人は同じテーブルに収まるようだ。そんな様子を眺めながら、カルミアは不思議な気持ちでいた。

(あの二人って、仲が良いのかしら。ゲームではそんな描写はなかったけど)

 そもそもリシャールが絶対零度の空気を放ち、近づこうものなら攻撃しかねない雰囲気だった。

(それなのに今の二人は――)

 仕事が途切れたカルミアはフロアの陰から様子を眺めていた。こうして見るとオランヌが一方的に話しかけているようだが、本当に煩わしければリシャールも姿を消しているはずだ。

(仲は悪くない、のかしらね)

 そして二人が座る場所だけやけに華やかに見える。学園の食堂ではなく、高級レストランのようにも感じさせる迫力があった。

(攻略対象とラスボスのテーブルだもの、華やかなのも当然ね)

 リシャールの態度があまりにも違うせいで忘れそうになるが、彼はこのゲームのラスボスなのだ。
 リシャールはスプーンとフォークで器用にパスタを食べ進めている。オランヌも待ちきれないとばかりにカレーに手を伸ばしていた。

「美味しい!」

 そう呟くオランヌの姿を前にカルミアはほっと息をつく。攻略対象の食生活を守ることこそ、カルミアの悲願だ。

「あたし癖になりそうよ。もっと辛くてもいいくらいね!」

「はいはい」

 リシャールははしゃぐオランヌを適当に受け流す。
 人を惹きつける華やかな容姿。明るく頼もしい人柄。そして授業の分かりやすさから生徒たちに絶大な人気を誇るオランヌの宣伝とは有り難い。カルミアにとっても話しやすいオランヌとは学食以外でも交流を深めることになるだろう。
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