悪役令嬢はラスボスの密偵として学食で働くことになりました
(初めてプリンを食べた日の夜、職員寮に押しかけて来たのは衝撃だったわね……)

 プリンの作り方を教えるよう迫られたのである。
 とはいえ料理に関してドローナは何もかもが初めてであり、いよいよ今日からはカレーの習得に向けて特訓が始まろうとしている。
 そんなところをベルネはチクチクと攻撃していた。

「まだ習ってもいないくせに偉そうに。それに人間、菓子だけじゃあ、物足りないだろう。そういうことは上手く野菜を切れるようになってからいいな」

「私はどこかの置物ベルネと違って料理を運ぶのも手伝っているの。それに授業だってあるわ。忙しいのよ!」

「ふん! 生きてきた時間はあんたのほうがちいとばかり長いようだが、ここではあたしの方が先輩だってこと、忘れるんじゃないよ」

(ドローナの方が年上なんだ……)

 ばちばちと火花が飛び散る横で、カルミアは見当違いのことを考えてしまった。
 見た目は明らかにドローナの方が若いが、精霊の外見というのはどうやら当てにならないらしい。
 そのドローナは無邪気な子どものようにカルミアを急かしている。

「カルミア、早く早く!」

「それじゃあ、野菜を切るところから始めますね。まずは洗って……そうだ、料理をする時は指輪は外した方がいいですよ。傷がついてもいけないので」

 カルミアは親切で告げたつもりだった。しかしドローナはきょとんとしている。

「何言ってるの? 私、指輪なんてしていないわよ」

 確かに広げられている美しい手に装飾品の類は見当たらない。では何故カルミアはそこに指輪があると思いこんでいたのか。

(ゲームだとルビーの指輪をはめていたのよ。指輪はリシャールの耳飾りと共鳴していて、指輪を通してドローナはリシャールを操って……あ、れ? そういえばリシャールさんも耳飾りをしていない……?)

「カルミアったら、難しい顔してどうしたの?」

 難しい顔の元凶であるドローナは不思議がっている。そこでカルミアは少しだけ踏み込んでみることにした。

「ドローナは、校長先生のことをどう思う?」
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