悪役令嬢はラスボスの密偵として学食で働くことになりました
(ドローナが一緒に働いてくれて助かったわ。さすがにロシュとベルネさん二人じゃ大変よね。ロシュだって来期は学園に入学するはずだから、これからは働ける時間も限られるし……これはリシャールさんに働き手の問題についての進言する必要があるわね)

 ドローナが働いてくれる分、カルミアの仕事には余裕が生まれた。その時間を使って調査と学食の未来のために自分が出来ることを進めておこう。放っておけばベルネやロシュが自力でなんとかしてくれる、などと期待をしてはいけない気がした。

「……さて。あれこれ考えているうちに出来上がったわ」

 室内には甘いリンゴの香りが漂っている。
 火を止めればとろりと色付くリンゴジャムの完成だ。

「喜んでくれるといいな」

 呟きながら、しっかりとリシャールが喜ぶ姿を想像していた。

(な、何を勝手に想像して! だってリシャールさんが、いつもあんなに喜んでくれるから……)

 誰に言い訳をしているのかもわからず、カルミアは手早くジャムを包み彼の部屋を訪ねた。

「リシャールさん?」

 しばらく待つが、返答はない。
 そういえばと、初日の夜に帰りが一緒になったことを思い出す。あれはとても遅い時間だった。

(まさか、まだ学校に?)

 気になったカルミアはその足で学園へと向かっていた。今日中に渡さなければいけないというルールはないのに、姿が見えないことで不安になっているのかもしれない。

(私が望んでも、望まなくても、いつだってリシャールさんが声をかけてくれたから)

 予想通り校長室にはまだ明かりがついていた。ノックをすると、こちらは中からすぐに返答がある。カルミアがドアから顔を見せれば驚きに手を止めるリシャールの姿があった。
 探し人を見つけられたことで安堵するが、ディスクの上には書類の山が積み上がっていた。

「仕事中にすみません」

「いえ、ちょうど休憩しようとしていたところですから」

「休憩って、まだ仕事があるんですか!?」

「これでも校長ですからね。カルミアさんこそどうされたのですか? まさか、例の件で何か急ぎの報告でも」

「すみません、その件はまだ……」

 到着早速、申し訳なさが募った。
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