【電子書籍化&コミカライズ】悪役令嬢はラスボスの密偵として学食で働くことになりました
「毎年新入生たちがその話題を口にするものですから、私もすっかり覚えてしまいました。なんでも他店では類を見ない菓子を扱っているようで、確かに凄い人気ですね。我が校の生徒も並んでいるようですし、気になるようでしたらカルミアさんこの後いいかがです?」

「いえ、私は!」

「遠慮なさらないで下さい。気になっていたのでしょう?」

 どうやらこのままではリシャールに連れて行かれてしまう流れのようだ。それは避けたいと、カルミアは真相を打ち明けることにした。
 出来るだけ小さく、二人にしか聞こえないように声を潜める。

「実はあの店、私がオーナーなんです」

「は?」

 真相を告白するとリシャールは純粋に驚いている。彼の驚き顔はなかなか見ることが出来ないものだ。

「うちが経営しているんです。それで、繁盛しているなと。賑わう様子を見ていたら嬉しくて、つい見入ってしまいました」

「それは、驚きました」

「私たちが出会った時の買い付けも、あの店で提供する予定のフルーツを探していたんです。題してトロピカルフルーツフェア! 実現するどうかは私の交渉次第ですけどね。交渉の糸口をくれたリシャールさんには感謝しています」

「お役に立てて光栄です。ですがそういった出会いの件もありましたから、てっきり貿易を専門に活動されているとばかり思っていました」

「あの農園のフルーツは企画の目玉ですから、私自ら交渉に向かわせていただきました」

「なるほど。特別顧問という役職は想像以上に大変なものなのですね」

「そうなんです! 大層なのは名前だけで、いつまでもたっても現場を駆け回る仕事みたいです。だいたい父は私使いが荒いと思うんですよ!」

「というと?」

「あのカフェも、他の店もですが、輸入したものを販売出来る場所があればいいと話したら、それなら自分で出店しろと言われました。いきなり店を開けと言われた時にはどうなることかと思いましたよ」

 成功したからこそ笑い話に出来るが、当時は一族中が父の提案に卒倒したものだ。

「ということは、他にも手掛けていらっしゃる事業があるのですか?」

「我が家の手掛けている事業にはだいたい何らかの形で参加していると思います。昔からあれこれ提案してはいましたが、まさか片っ端から実現されていくなんて……」
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