猫になんてなれないけれど
「・・・冗談です」

「え、じょ、冗談・・・」

「・・・いや、冗談というか。真木野さんを困らせたい訳ではないので」

「とにかくお気遣いなく」と告げると、冨士原さんは、近くを歩いていた店員さんを呼び止めて、自分が飲むのであろう烏龍茶を注文した。

そして、「真木野さんは」と、日本酒メニューを指さしながら私に尋ねる。

「この日本酒でいいですか」

「えっ、あ、はい」

「じゃあ、これを」

「かしこまりました」

ついでに、先ほど話していた料理も注文してくれた。

店員さんは端末機にメニューを素早く打ち込むと、「では、お待ちくださいませ」と、頭を下げて立ち去った。

私は、先ほどの会話に気持ちが翻弄されていて、冨士原さんと店員さんとのやりとりを、ぼんやりと眺めてしまっていたけれど、我に返ってハッとする。

「・・・すみません。結局、日本酒頼んでいただいて・・・。でも、よくわかりましたね。私が好きな、お酒の名前」

「ああ・・・はい。初めて食事をご一緒した時、頼んでいたので覚えてました。真木野さん、甘いカクテルとか飲むんだろうと思っていたので。辛めの日本酒好きなのかって、意外で、印象に残っていたんです」


(・・・『みずもと』で、ご飯を一緒に食べた時・・・)


初めて行った婚活パーティ。冨士原さんとまさかのカップル成立で、「ハッピーフラワー」から、「みずもと」の食事に招待されたんだ。

あれから、そこまで月日は経っていないのに、ずいぶんと昔のように感じてしまう。
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