猫になんてなれないけれど
「あの時冨士原さん、私について色々と、『意外だ』って驚いてましたよね」

美味しそうにごはんを食べる姿とか、男の人に甘えられるのが好きそうだとか。

色々言われてムッとしたっけ・・・。

「ああ・・・そうですね。今となっては、全部真木野さんらしいって思うことだけど。あの時は・・・そうですね。いい意味で、それまでの予想が外れた」

横目で笑いかけられて、心臓が、飛び出しそうになってしまった。

さっきから、冨士原さんの言葉と目線に、私は翻弄されている。

「真木野さんも、オレが猫好きだって言ったら驚いてましたね」

「・・・はい。どちらかというと、犬派かなって思っていたので。それも、今となっては猫好きにしか見えないですけど・・・」

一緒に、猫カフェに行った記憶を思い出す。

あの時に見た優しい顔や、柔らかく、猫に触れる大きな手。そして、穏やかに時間が流れた空間は、私にとっても特別だった。

冨士原さんの隣には、犬より猫、だと思う。

「・・・そうだ。冨士原さん、猫の動画も見たりしますか?」

先日気になったことを思い出し、話の流れで聞いてみる。

すると、冨士原さんは眼鏡の縁を持ち上げて、真面目な顔で「はい」と答えた。

「当然です。見ない理由がないでしょう」

「で、ですよね・・・」

犬好きの私が犬の動画を見るように、猫好きの冨士原さんが猫の動画を見ることは、当然と言えば当然だ。

愚問だったかもしれない。

「実は私も、この前見てみたんです。そしたらすごくかわいくて」

「・・・猫派になりましたか」

「い、いえ、それはまた、別の話なんですけれど」

答えると、冨士原さんは「残念だな」と小さく笑う。

「相変わらず、好みが頑固は変わりませんね」

「か、変わりませんよ。冨士原さんだって、ずっと猫派じゃないですか」

「まあ・・・そうですね。お互い様か」

「はい。完全に、お互い様です」

顔を見合わせて、二人で笑った。

やっぱり、冨士原さんといると楽しくて、あったかい気持ちになっていく。穏やかな時間。気持ちが自然と満たされる。
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