猫になんてなれないけれど
普通のスーパーで買った6枚切りの食パンだけど、冨士原さんは、コーヒーと共に「美味しい」と言ってくれていた。

私も確かに、今日はいつもよりもおいしく感じる。


(・・・これはやっぱり、冨士原さんと一緒だからかな・・・)


なじみのスーパーの食パンも、それだけで、特別なものになったよう。

使ったバターもトースターでの焼き加減も、いつもと何も変わりがないのに。

「・・・美桜」

食パンを味わっている最中に、名前を呼ばれ、瞬時にドキッとしてしまう。

下の名前はまだ慣れない。

口に入っていた食パンを、慌てて飲み込んでしまった。

コーヒーをひとくち飲んで、落ち着いてから「はい」と彼に視線を向けると。

「・・・結婚しようか」

冨士原さんが、真面目な顔でそう言った。

真っ直ぐな目で、突然に。

私はとても、驚いて。

驚きすぎて、気持ちがついていけない状態になる。

「え・・・、あ、あの・・・」

「いや・・・いつも、こういう風に過ごせたらいいなと思って。ごめん、かっこいい演出とか、なにもしないで言ったけど」


(え、え、え・・・)


本当に、突然すぎることだった。

もちろん、「結婚しよう」と言われるなんて、どんな時でも突然なのかもしれないけれど。

なんとなく、言われる前兆というのはあるのかなって思ってた。

それなのに、完全に不意打ちで。

付き合い始めて3日目になったばかりだし、今はまさかの朝食中だし、私はすっぴん&パジャマだし・・・。

そんな姿と状況で、プロポーズなるものを受けるとは。

戸惑ったまま、フリーズ状態の私の顔を、冨士原さんは覗き込む。

「・・・突然で、驚かせたか」

「は、はい」

うんうん、と何度も強く頷く私。

冨士原さんは、「そうだよな」と苦笑した。

「まあ・・・結婚前提で付き合う事を承諾してもらっているから。突然なのは、許してほしいと思うんだけど・・・」

そこで一旦言葉を止めると、息を整え、彼は再び話し出す。
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