猫になんてなれないけれど
「ああ・・・いえ、大丈夫です。ちょっと戸惑いましたけど、猫カフェには興味があるし、いい機会かなと思ってます」

「・・・そうですか」

少し、ほっとした横顔だった。「強引」って、気にしてたんだ。

「冨士原さん、あの時実は酔っぱらってて、勢いで言ってるのかなって思ってたんです。でも、普通に、ちゃんと覚えてたんですね」

だって、こんな風にきちんと記憶があるようだから。私が言うと、冨士原さんは悩むように左手で一度顎を触った。

「いや・・・半々です。それなりに覚えてますが、酔っていたのは事実です。普段、女性を猫カフェに誘うなんてできないですしね・・・。なかったことにしてもらおうかとも考えましたが、折角、約束をしていただいたので」

思い出したのか、少しだけ、頬が赤くなっていた。

やっぱり、アルコールの影響は大きかったようだった。

スーツじゃないし、お酒で目は据わってないし、私が知る冨士原さん史上、今日が一番話しやすいかもしれない。

気持ちの距離が近く感じて、私は話を掘り下げた。

「女性を・・・って、彼女とか、誘って行ったことはないんですか?」

尋ねると、表情を崩さないまま、冨士原さんは「はい」と答えた。

「ないですね。ああいうところは、一人で行く方が落ち着きますから」

「そうなんですか?男の人が一人って・・・行きにくいのかと思ってました」

「いえ。一人で行くのが一番です。癒やしの場ですし、同行者に気を遣わないでいいですからね」


(そ、そうなんだ・・・)


とはいえ、冨士原さんが猫に癒やされている状況は、やっぱり上手く想像できない。

猫を撫でる場面でも、猫じゃらしを振る場面でも、私の頭の中の冨士原さんは、相変わらず無表情で、ひたすら手だけを動かしているロボットのような印象だった。


(そんなことはないだろうけど・・・あ!実は、すごくはしゃいでいたりして)
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