猫になんてなれないけれど
カーナビの矢印が、見覚えのある地図の上を進んでいく。私の自宅マンション前で、冨士原さんは車を停めた。

当初、15分の予定だった走行時間は、途中に渋滞があったため、10分程長くかかってしまった。

「申し訳ありません。予定より遅くなって」

「いえ。こちらこそすみません・・・。冨士原さん、これからまだお仕事なのに」

「ああ、大丈夫ですよ。大したことは残ってないので」

富士原さんの時間を心配しながらも、もう少し、遅くなってもよかったのにな、と、わがままな気持ちが顔を出す。

こういう気持ちは一方的だし、切なくなるから嫌だけど。

シートベルトを外して脇に置いていたカバンを持った。外に出ようとドアに手をかけた時、冨士原さんは、私の方を振り向いた。

「真木野さん」

「はい」

「もし、なにかあったらすぐに連絡してください。110番でも、私に電話でもいいですし、急がない相談でしたらメールでも」

「あっ、はい・・・」

相談の電話やメールをしてもいいんだ。

わざわざ言葉で伝えてくれて、驚いたけど、私はとても嬉しかった。

「それと、しつこいようですが本当に無茶をしないでくださいね。真木野さん、もう少し冷静な方だと思っていたので・・・。心配です」

暗がりの中、眼鏡越しに見つめられ、私はドキリとしてしまう。心臓を落ち着かせながら、視線を逸らして言葉を繋ぐ。

「だ、大丈夫です。普段は割と冷静ですし。ただ、あの時は・・・」
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