猫になんてなれないけれど
「わかりますが。真木野さんが殴られでもしたら困りますから。もう二度と、ああいう無茶はしないでください」

真っ直ぐな視線を向けられて、私はまたドキッとなった。

多分、立場上の警告なのだと思うけど、冨士原さんの個人的な気持ちかもって、少しだけ、期待してしまう自分がいた。


(・・・なんて。まさかね・・・)


都合のいい考えを、すぐに頭の隅に追いやった。気持ちを切り替え、「はい」と短く頷くと、ドアを開けて外に出た。

「じゃあ・・・今日は、本当にどうもありがとうございました。お仕事、頑張ってください」

「いえ、お疲れ様でした」

そう言うと、冨士原さんは無表情で会釈した。

頭を下げて後部座席のドアを閉めると、車はすぐに走り去る。

「・・・はあ・・・」

緊張からの開放と、別れた後の、寂しさと。唇からは、自然と息が漏れていた。


(もう少し、名残惜しそうに走って行ってもいいのにな・・・)


なんて、冨士原さんには、名残惜しさなんて全くないんだろうけど。私の胸にはどうしようもなく、そんな気持ちが湧いてくる。

「好き」って気持ちに気づいたら、些細なことも、切なさへと繋がっていく。

悔しいけれど、この気持ちはもうコントロール不可能だった。








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