猫になんてなれないけれど
マンションの前まで送ってもらい、エントランスの外で冨士原さんの車が見えなくなるまで見送った。

すぐに曲がり角にさしかかるから、そんな少しぐらいの時間なら、見送られても負担にならないだろうと思った。


(・・・なんて、すごい言い訳だ・・・)


見えなくなるまで、ただ、私が、彼の車を見ていたかった。

完全に恋愛脳の自分にブレーキをかけたい自分もいるけど、その機能が上手に作動しないことは、充分にわかりきっている。


(・・・こんな予定じゃなかったけどな)


いつの間に、こんなに好きになっていたんだろうか。

仕事なら、気持ちのコントロールはもう少し上手にできるのに、今の私は、そんな自分とはかけ離れているようだった。


(・・・冨士原さんは・・・どう思っているんだろう・・・)


嫌いじゃないとか私情とか。

言われた言葉は曖昧で、私には、彼の気持ちはわからない。

以前に比べてたくさん笑ってくれるけど、それでも、基本的には無表情だし、さっきの別れ際だって、相変わらず名残惜しさなんてなさそうで、すぐに車も去って行ったし・・・。


(・・・別に、言葉に深い意味はない?)


私が勝手に、一喜一憂しているだけかな。

それはそれで切ないけれど・・・。


(・・・とりあえず、後でお礼のメールをしておこう)


私の気持ちはさておいて。

今はとにかく、萌花の件を無事に解決することが最優先だ。

冨士原さんのことは、それからまた考えることにして・・・。


マンションのエントランスを通り抜け、ポストをチェックしてからエレベーターに乗り込んだ。

その時、視界の隅に人影が入ったような気がして、私は「開」のボタンを慌てて押した。

けれど。


(あれ・・・?気のせい?)


廊下を覗くと、人影はもう消えていた。周囲には誰もいないし、エレベーターに人が向かってくる気配もなかった。

少し気にかかったけれど、もう遅い時間だし、もしも相手が男性だったら、二人きりでエレベーターに乗るのは正直怖い。


(・・・まあいいか。私も疲れているもんね・・・)


そのまま、ボタンを押してエレベーターのドアを閉めた。

そして、3階にある自宅へ帰り、ひと息つくと、冨士原さんにメールを送り、シャワーを浴びてそのまますぐに眠りについた。





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