猫になんてなれないけれど
そう言って、また、優しい顔を見せるから。

私は、さらに動揺してしまう。

「ふ、冨士原さんも真面目じゃないですか。いつもきちんとしているし、仕事だって警察官だし」

「・・・・・・まあ、そうですね。不真面目ではないですが。頭が固いだけかもしれません、オレの場合」

言われて見つめた横顔からは、感情はあまり読めなくて。

ただ、そんなことはないのになって、それだけは伝えたくなった。

「・・・・・・あの」

「はい」

「頭が固いだけだったら、仕事じゃないのに、こんなに遅くまで相談に乗ってくれたりしないと思うんです。萌花のことは、知り合いの方が解決できそうだからって言ってましたけど、間に入って話をするのも、すごく大変な事だと思うし・・・」

だから、なんだと言われると。

「優しい」とか「好き」だとか、そんな言葉を言い出しそうな自分に気づき、慌てて言葉を飲み込んだ。

2人だけの夜の車内は、魔法にでもかかったように、素直な言葉を口にしそうで少し危うい。

「・・・だから、冨士原さんは、頭が固いだけだとか、そんなことはないと思って」

そう、言い訳のように言葉を足した。

この説明で私の気持ちのどこまでが、伝わってしまったのかはわからない。

「・・・そうですね」

目線を前に向けたまま、冨士原さんが呟いた。

そして、少しの間を置いて言う。

「確かに、今回の件は真面目にとか責任感とか、そういうもので動いたわけでもないですね。もちろん、力になれればとは思いましたが。私情が結構絡んでる。萌花さんは、真木野さんの大切なご友人のようなので」


(ーーーー・・・『私の、大切な友達だから』・・・)


それを「私情」とするならば。

冨士原さんは、私がお願いしたことだから、ここまでしてくれるのだろうか。

それはどうして?

私が相澤先生の知り合いで、看護師で、自分が患者だからって、なにか、恩とか義理とか、そういうものを感じてる?


(それともーーー・・・)


甘い期待をしそうになって、そんな自分を制御する。

だって私は猫派じゃないし、冨士原さんの好きなタイプとはかけ離れているし、今日は、あろうことか怒りまくった姿を見せて・・・。


(でも、そういうのも『嫌いじゃない』って・・・)


混乱する。

もっとわかりやすい言葉なら、私にも、冨士原さんの気持ちが理解できるのかもしれないけれど。

期待とか自惚れとか勘違いとか、様々な感情が頭の中を交差する。

窺うように、横目で運転席に目を向けた。

だけど、無表情になった冨士原さんの心の中は、私には、読み取ることはできなかった。








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