猫になんてなれないけれど
そして翌日。金曜日。

仕事帰り、「はなの季」に立ち寄ると、お店には、カウンターの中に萌花が一人いるだけだった。

私を見ると、「いらっしゃい」「色々どうもありがとう」と笑顔で迎えてくれたけど、どこか緊張している面持ちだ。

解決できたと聞いて、もちろん安心しているようだけど、「どんな風に」とか、「どうしてこんなに早く?」とか、色々心配はあるもんね・・・。

「冨士原さんたちも、もう少しで着くってさっきメールがあったよ」

「そっか・・・わかった。あ、座って」

「うん」

促され、私は、いつものようにカウンターの席に腰掛けた。そして、落ち着かない様子の萌花に尋ねる。

「椿ちゃんは、今日も実家?」

「うん」

「門脇さんも・・・自宅だね」

左隣は、今日も空席。

前回と同じく「19時閉店」にしたそうだから、他のお客さんがいないことはもちろん当然なのだけど・・・。

「なんか、門脇さんに随分会ってない気がするな」

今までは、カウンターに座れば当たり前のように左隣にいたけれど。

先週訪れた時もいなかったし、会えないと結構寂しいもんだなあと思う。

「ああ・・・そっか、美桜はそうかもね。さっきまではいたんだけど・・・。門脇さん、お店に毎日来てくれるから、私は相変わらず会わない日はないんだけどね」

「そうなんだ。でも、よかったよ。安心だよね、門脇さんがいてくれるとさ」

私が言うと、萌花の動きがピタリと止まった。

少しだけ、頬が赤くなっている。

「・・・うーん、まあ、そうだね。安心では、あるのかな」

話をはぐらかすように、萌花は、グラスを拭きながら奥の厨房に入ってしまった。

なんとなく、2人の関係が進展したような気配を感じてちょっとワクワクしたけれど、今日は聞かないことにする。

その時、ガラガラ、と、お店のドアが開く音がして、萌花がまた、カウンターに顔を出す。

「こんばんは」

冨士原さんと、見知らぬ男性が店の中に入ってきた。きっと、富士原さんが言っていた弁護士さんだろうと思う。

「初めまして」と、萌花が慌てて挨拶をする。

「冨士原さんも、今日はわざわざ来ていただいてすみません・・・。狭いですが、お二人とも、どうぞこちらに・・・」

緊張した様子で萌花がカウンターの席を勧めると、私の右一つ空けて隣の席に冨士原さんが、その隣に弁護士であろう男性が椅子に腰掛けた。

男性は会釈をすると、すぐに名刺を萌花と私に差し出した。

「伊集院青龍と申します」

イジュウインセイリュウ・・・。

すごい名前だ、というのが第一印象。格闘技でもやっていそうな体格に、精悍な顔立ちの印象もあり、格闘ゲームのキャラクターを彷彿させた。
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