猫になんてなれないけれど
「・・・伊集院・・・」

まじまじと、名刺を見ながら萌花が呟く。私もそこではっとする。

「もしかして・・・伊集院幹斗議員の親族の方、ですか?」

どこにでもある名字ではない。

しかも名前が「青龍」だ。名家の気配を感じていると、青龍さんが「はい」と頷き、冨士原さんが言葉を足した。

「彼は、伊集院朱雀元首相の長男で、澄美華さんの弟です。ですから伊集院幹斗議員は、彼の義兄にあたります」


(そ、そんなひと・・・)


改めて、青龍さんの顔を見た。そういえば、元首相にどことなく顔が似ている。

「華々しい家系の人間ですし、幹斗議員の親族でもありますからね。彼の素性を話したら、萌花さんに遠慮や抵抗が生まれるんじゃないかと考えまして。あえて、解決するまでは秘密にさせていただいたんです」


(・・・なるほど・・・)


青龍さんは弁護士だから、それこそ、仕事としてきちんとお願いするならまだしもだけど。

普通に生活していたら、かなり遠い存在の人。正体が先にわかっていたら、間接的な繋がりだけでお願い事をするなんて、萌花も躊躇していただろう。

「確かに、恐れ多いというか・・・親族というのも心配ですし、事前に聞いていたら・・・断っていたと思います」

青龍さんの素性を聞いて、萌花は今、まさに恐縮しているようだった。

それを感じ取ったのか、青龍さんは真面目な顔で首を振る。

「いや、やはり、事前に知られず・・・断らないでいただいてよかったです。このたびは、義兄が大変なご迷惑をおかけして、誠に申し訳ありませんでした。本当に・・・僕に相談していただいてよかったです。どうもありがとうございます」

「い、いえ・・・」

青龍さんの突然の謝罪とお礼に対し、萌花は驚き戸惑っていた。冨士原さんが言葉を繋ぐ。

「実は彼も、幹斗議員には苦労をかけられていて。萌花さんに比べれば・・・ということですが、辛い気持ちは同じだろうと思うので。今回、萌花さんの力になれてよかったと言っていたんです」

「・・・苦労、ですか・・・」

尋ねるように、萌花がそう聞き返す。青龍さんは、「はい」と言って話を続けた。

「義兄さんの、三波くららとの不倫報道はご存じですよね」

「はい」

「実は、義兄さんの浮気は今回だけじゃないんです。姉さんとの結婚後、僕が把握しているだけでもあと4回、余罪があります」

「よ、4回!?」

萌花と2人で驚いた。青龍さんは、ため息をついて話を続ける。
< 88 / 169 >

この作品をシェア

pagetop