王妃様の毒見係でしたが、王太子妃になっちゃいました
「ここからさらに北へ向かうんですよね」

とはいえ、北がどっちかなんてわからない。
ロザリーが困り果てていると、「こっちよ」とカイラが促す。

「どうしてわかるんですか?」

「モーリア国は北の方が高地になっているから、川はおおむね北から南に流れているの。太陽が今の時間なら中天にあるでしょう。今の季節は西側に傾くはずだから……」

さらりと説明するカイラに驚いて見つめると、彼女は恥ずかしそうに微笑んだ。

「私の死んだ父は貿易商だったの。星や太陽で方向を図るのは基本的なことだそうよ」

「では、歩きましょう」

川の近くは、これまでよりずっと滑りやすい。何度か転んでは泥だらけになってしまう。

「……ふふ」

「はあ、はぁ……どうしました?」

ロザリーもカイラも息が荒い。

「今の私たちが、王妃とその毒見係だなんて……誰も思わないわね」

「そうでしょうね」

何せ泥だらけで馬車から転げ落ちたときに引っかけたのかドレスも破れている部分がある。

「……でも誰が認めなくても、陛下が待っていてくれるなら、絶対に生きて戻らなければ」

「ですよね。頑張って歩きましょう!」

励まし合いながら、足を前に向かわせる。

夜までに開けたところに出なければ、困る。ふたりには火をおこす手段も、獣と戦う力もない。
ロザリーは不安になりながら広がる木々を見つめた。

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