王妃様の毒見係でしたが、王太子妃になっちゃいました
「で、ご用件は? ケネス様」

「ああ、母上が家族を呼んでお茶会をするから、君に菓子を頼みたいって。ついでに君自身にも来てほしいそうだよ」

「私もですか?」

「母上にとっては、君も娘のようなものだからね」

父母が故郷へと帰ってから、クリスを我が子と同じように教育し、気遣ってくれたのはケイティ夫人だ。クリス自身も、第二の母と思って慕っている。

「それは楽しみです」

「俺は憂鬱だけどね。結婚しろとうるさいからな。母上もいい加減諦めればいいのに」

「そりゃ、ケネス様はイートン伯爵家の後継ぎですもの」

なんだかんだ言ってもしっかりしている彼だからこそ、頃合いを見て必ず結婚するだろうという甘い憶測を誰もが抱いていた。まさか三十五歳になるまで結婚しないとは誰も思わなかっただろう。

「俺の後はクロエの息子のひとりを養子にもらえばいい。俺は正直、貴族の令嬢というものに魅力を感じないんだよね。優雅に毅然としているのが美徳なのは分かるけれど、面白味がなくてね」

ケネスとの縁談が不作に終わったという令嬢を、クリスは何人も見たし、話したこともある。
皆、文句のつけようのないご令嬢だっただけに、一体どんな人なら納得するのだろうと思ったものだ。
中には、かなり本気のご令嬢もいて、しくしくと泣かれたときにはクリスも一緒に泣きたくなった。
叶わないならせめて、さっさと結婚して諦めさせて欲しいという彼女の気持ちは、クリスに重なるところがあったのだ。
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