王妃様の毒見係でしたが、王太子妃になっちゃいました


ザックがグリゼリン領に向かう準備がトントンと整っていく。
ロザリーはカイラのお使いと称してザックと会う時間を設けていたが、あまり長ければ怪しまれる。
短い会話時間で確認できたことは、オードリーがアンスバッハ侯爵邸にいるのは間違いはないだろうということくらいだ。

「グリゼリン領についたら手紙を書くよ。カモフラージュで母上あてで書くけれど、君に宛てたものだから」

「はい。あ、もちろんカイラ様にも書いてくださいね」

「分かってるよ。母上のこと、……頼むな」

考えれば寂しさが襲ってくる。

会えなくなって、アイビーヒルから彼を追いかけてきた。
せっかくまた会えるようになったのに、彼は捕らえられ、傍にいるのに顔も見れない生活が続いた。そして再び訪れる別れ。

王子様との恋は、なかなかおとぎ話のようにめでたしめでたしにはならない。
寂しさは胸に隠して、ロザリーは微笑んで見せた。

「安心してください。ザック様の代わりに、ちゃんとカイラ様をお守りします」

「頼りにしてる。……それに、離れてもひとりじゃないしな」

ロザリーが渡したジンクスのあるペンダントを、茶目っ気たっぷりに見せてくれ、ロザリーも笑って服の上から自らのペンダントを押さえる。

「君からのプロポーズの記念だ。一生大事にする。……二年後、俺から、ちゃんとプロポーズするから、それまで待っていてほしい」

「……はい!」

これまでの期間に、ザックとの思い出の品はたくさんできた。
今見せてくれた、ロザリーから贈ったペンダントもそうだし、においを嗅ぐときに口元を隠すように、と彼が昔送ってくれた扇も、大切にとってある。今は、侍女という立場上、なかなか使うことはできないが。

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