王妃様の毒見係でしたが、王太子妃になっちゃいました
「……ふう」
それはカイラも同じだったようで、彼女は部屋に戻るとソファに深く座り、背中を預けれると、大きなため息をついた。
「とりあえずひと段落ね。これが正しかったのかは、私には納得しかねるけど」
「そうですね」
それでも、ずっと軟禁されているよりはいいはずだ。
精神の疲弊は、彼を壊してしまう。病んでいた時代を知っているロザリーには、彼の心の安寧が一番大事だった。
「アイザックは行ったんだな」
やがて、国王が顔を出した。
彼は彼で、疲れた顔をしている。
バイロン王子の葬儀後すぐにカイラを呼び戻し、アイザック王子を擁護し続けたことで、アンスバッハ侯爵派の貴族からは批判的な態度を取られている。
一部では、『寵妃の息子を次期国王にするために、王自らが王太子を手にかけたのではないか』などという、不敬極まる噂も流れた。
その時のカイラとの会話は、ロザリーの記憶にはっきりと残っている。
『不思議なものだな。私は昔からバイロンを優遇し続けていたのに、ちょっと状況が変わっただけで、口さがない者たちは直ぐに主張を変える。あの者たちは今まで、なにを見ていたのだろうな』
苦笑するナサニエルの手を、カイラが、気遣うように握った。
ふたりの心温まる光景を見たとき、ロザリーが思い出したのは、アイビーヒルで出会った頃のザックだった。
(きっとあのときのザック様も、こんな風に傷ついていたんだ……)
何を信じればいいのか、分からなくなる。権力に近い場所にいるほど、そんな状況に出会いやすいのかもしれない。
彼はそれで、心を壊した。そしてアイビーヒルに逃げてきたのだ。
けれどいつまでも逃げ続けてはいなかった。この国を立て直したいと、王都に戻っていったのだ。
そんな彼が、どうして国の中枢から追われなければならないのだろう。