月影に燦めく
「もう半年すると結婚です、なのに私は未だに それを認められないようです。
彼の方と一緒になることなんて想像もつきません。」
暗い表情をしてみせる姫君。
庶民あがりである私には "許婚がいる" のは見当も付かないことなのだが、やはり気を揉むことなのだろう。
「首藤殿は善い御人です、少々手厳しいところもありますが 情のある御方ですよ。
尤も 私より姫君の方がご存知かと。」
「それでも 私は嫌なのです、彼の方と契りを交わすくらいなら死んでしまいたい……」
小声で ぽつりと溢された。
"死んでしまいたい" なんて言葉、生まれてこのかた聴いたことがない。
私は何も言えなくなる。
「聞こえたかしら?」
私は姫から眼を逸らして、小さく頷いた。
「では、聞かなかったことになさい。いいわね?」
"えぇ" と私は応えた。
「……それにしても 本当に良い場所ですね。」
伸びをしながら草原に寝そべる。私につられたのか姫君も同様になさる。
「そうでしょう?私のお気に入りの場所なの。」