ボードウォークの恋人たち
「本当にあなたが羨ましいわ。二ノ宮家に生まれたってだけで簡単に治臣が手に入るんですもの」
望海さんを無視し、くいっと顎を上げると私を見下す視線を向けてきた。

「私も治臣が欲しかったのに」

欲しかったって、何。私の作り笑顔が凍り付いた。

「私の実家はたかが300床の病院。片やあなたは天下の二ノ宮グループのお嬢さま。うちの病院なんかじゃ足元にも及ばないのだから仕方ないわね。うち程度の病院じゃ治臣のお眼鏡に叶わなかったのだわ」

何言ってるんだろう、この人。
勝手に出てきて訳のわからない言葉を次々と吐き出している。
私が黙っているせいなのか女性の口は止まらない。

「治臣には二ノ宮総合病院の次期院長じゃなくて楓宮大学の教授になる道もあるのに、治臣ったら巨大グループの院長の座を取ったのね。私は大学教授の方が彼には向いてると思うんだけど。やっぱり教授より二ノ宮グループの方が儲かるからかしら」

次期院長とか、大学教授とか、
なぜこの人がハルの将来を語るんだろ。

目の前にいる女医の自信たっぷりな態度に次第に鳥肌が立ってくる。

濃いアイメイクの目は太く弓形を描き、赤い口紅を付けた口角がきゅっと上がっている。
彼女の顔を見ていると白衣よりむしろ女王が身につけるような黒いマントの方がお似合いだと思うどこか客観的な自分がいる。

「愛がなくてもお金があるんだからただの地味な女を嫁にしてもいいだなんて治臣も悪い男。二ノ宮総合病院の院長の退職は来年だったかしら?次期院長を狙うのならその前に籍を入れておかないといけないものね。急いで帰国、急いで婚約、次は急いで結婚、そして院長就任ね」

高いヒールを履いた女性が私を見下ろし蔑むようにふふんっと鼻で笑いだした。

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