ボードウォークの恋人たち
ぼーっとしていた私の頭を現実に引き戻したのは何となく財布と一緒に持ってきていた借り物のスマホだった。

ぶるぶると振動しているスマホは誰かからの着信だ。
今このスマホを私が持っていると知っているのはリュウさんと詩音、それと大江さんだけ。
仕事用のものといっても普段は使っていないからバーのお店関係者にもこの電話番号はほとんど知られていないと聞いていた。
ということは私宛の着信である可能性が高い。

ーーー大江さんからだった。

『二ノ宮さん、大変なんだ』

電話に出た私の耳に大江さんの慌てた声が響く。
相当慌てているらしく、電話の向こう側から聞こえてくる息遣いが荒い。私に助けを求めるような何かあったんだろうか。

「どうしました?」
こんな時には一緒になって慌ててはいけない。ことさら冷静な声を出して問いかけた。

『舘野先生がーーーー階段から落ちて頭部に怪我を負って救急車で運ばれた。意識がないそうだ』

ひゅううっといきなり足元の床が無くなったような感覚がした。

ハルが階段から落ちた?
頭部に怪我をした?
意識がない?
ハルが救急車で運ばれたーーー?

ハルが、ハルが?
目の前の景色が白くなり、周囲の音が膜を張った向こう側から聞こえてくるような自分がどこにいるかわからなくなったような非現実感。

『---さんっ、二ノ宮さんっ。聞こえてる?二ノ宮さん!』

はっ。
電話の向こうから聞こえる大江さんの大声にどこかに行きかけていた私の意識が戻った。

「すみません。もっと詳しいことわかりますか」

『僕も見てたわけじゃないから落ちた時の正確な情報はないけれど、誰かを庇って階段から落ちたって。で、頭を打って救急車が呼ばれた。初めは意識があったけど、救急車が到着する前に意識がなくなったって』

ハルが運ばれたのはうちの父がいる二ノ宮総合病院だという。

いてもたってもいられなくて私は席を立った。

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