ボードウォークの恋人たち
それからは分刻みのスケジュールになった。
医学界のみならずお金の臭いを嗅ぎ付けた他業種やマスコミからも面会希望者が列をなし、教授が慌てて自分の秘書をハルに貸してくれた程だった。

連絡がとれない水音を心配してマンションに戻ったのは翌日の深夜だった。

水音はいない。リビングもキッチンもハルが家を出た時と同じ。人がいた気配もない。
嫌な予感がして水音の寝室のドアを開ける。

少し乱れたベッドの上に置かれていたのは真冬のコートといくつかのハンガー。
デスクの上からはいつも使っていたノートパソコンが失くなっていて、半開きになっていたクローゼットを覗くと明らかに洋服が減っていた。

ーーー水音が出て行ってしまった。
ハルに弁解するチャンスも与えず。

6年前、頭を撫でようとしたら水音に手を払われて気が付いたそれまでの自分の愚かな行い。
学費を稼ぐためだったとはいえ、女の子たちに競わせるようにして家庭教師のアルバイトをしていた。
もちろんみだらなことは何一つしていない。思わせぶりなことを言っていた女もいたが、あえて否定はしなかった。大事な客だったから。
しかし、その姿は純粋だった水音の目にはさぞかし汚く映っただろう、自分に触れられることを完全拒否するほどに。

あれから女性と仕事上の表面的な付き合い以外女性は近付けていない。
例外が義妹の沙乃だった。
だが、発表も終わった。もう沙乃の相手もお終いだ、そう思った自分が甘かったのだと知るのは翌朝のことだった。
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