ボードウォークの恋人たち
「虜?」
ハルは吹き出すように笑い出した。

「俺が誰の虜になるって?俺は昔から水音の虜だけど」

「あなたのその笑顔にその辺の女性たちが、に決まってるでしょ」

今だってハルの笑う姿に見惚れてる女性陣がいる。
今日ここに来ている人たちはそんなことしないだろうけど、この先既婚者だってだけでは安心してはいられない。世の中にはそう言う垣根がない人も存在するから。

「みーお」

ふにっと私の額にキスが落ちてきてぴきんっと私の動きが止まった。
うっそ。
なんで今キスした。額だけど、額だけど、額だけど。
恥ずかしくない?

「俺、今日は嬉しすぎて笑顔以外の表情作れない」

「嬉しすぎて?」

「水音は嬉しくないの?俺と結婚」

嬉しいに決まってるでしょ。じろっと睨むと苦笑が帰ってきた。困ったやつだなぁと言わんばかりにふにっと頬をつままれる。

「水音も嬉しいなら笑顔、笑顔。明日から俺の笑顔は外で封印してもいいから今日は勘弁な。今日ぶすったれてると余計に周りに政略結婚だと思われるぞ」

え。
あ、そうか。
いやそれはまずい。
幸せそうな顔を見せつけて恋愛結婚アピールしなきゃ。
これが政略結婚だと思ってなんだかんだと言ってくるアホな人がいるのだった。

うちの病院内では私たちが政略結婚だと思ってる人はおそらくだけどもういない。
ハルがわかりやすくラブラブアピールしてるから。院内じゃ政略結婚というよりはバカップルだと思われていると思う、うん。

でも一歩外に出るとまだいるのだ。ハルの大学の医局にも他の病院のスタッフや患者さんにも。
恐ろしいことに私をターゲットにした逆玉狙いの男もいるのだ。

「あなたを愛のない結婚からお救いします」と二、三度どこかで見かけたことのある製薬会社の御曹司に手を握られたのは先月あった知り合いの大学教授の退官パーティーの席での話だ。

愛、ありますけど。
いえ、愛しかありませんけど。
そう言ったのに、なぜか可哀想なものを見る目で見られ、よりしっかりと手を握られ鳥肌が立ったところを妹のピンチに気が付いた兄が助けてくれたという出来事もあったのだ。
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