ボードウォークの恋人たち
「とりあえずここに座って話を聞け」の言葉に渋々ハルから離れた場所に腰を下ろす。

「強情だな」と言う言葉は聞こえない振りをした。
そうそう魔王の言うなりになってやるもんか。

「おばさんから水音のアパートの周りの治安が悪いって話は聞いたんだろ」
それはさっき電話で聞いたから知ってると頷いた。

「だからおばさんも俺も水音が心配なわけ。特に夜勤もしてるから夜中の出入りがあるし。あそこはダメだ。だからこれからはセキュリティ万全なここに住むんだよ」

「途中から意味がわからないんだけど。危ないのはわかった。だけど、どうして勝手に引っ越しするのかな。ここはハルの部屋なんでしょ?どうしてここに私の荷物が運び込まれてるわけ」

「ここは俺と水音の部屋だから」
魔王ハルはまたにっこりとした。

「ハルと私?⁉」

「そう。これから俺たち一緒に暮らすんだ」
魔王が高らかに宣言した。

「そんなの聞いてない」

「今、言った」

「ばっかじゃないの⁈だから、どうしていきなりハルと一緒に住むって話になってるのよ」
マジで意味がわからない。

「結婚するからでしょ」

「誰が」

「俺と水音がさ」

平然と意味不明な発言を繰り返すハルに私の怒りが爆発した。
「だから、何でだって言ってんの!」

怒りでわなわなと唇が震えだす。
「この間から冗談もいい加減にして」

「冗談じゃないさ。水音は俺と結婚するのがそんなに嫌?」

「嫌よ」
はっきりと拒絶するとハルはちょっと顔を固くしたけれどすぐに表情を和ら不適な笑みを浮かべた。
「でも諦めろ。もう決まったことだから」

「同意なく結婚なんて出来っこない」
ムキになって言い返すとハルはくすくすと笑い出した。

「約束してただろ。『ハル君、私と結婚して』ってプロポーズしてきたのは水音の方だし?あの時の水音は素直で可愛かったなぁ。だから俺もオッケーしたのに」

プ、プロポーズ!

「そんなの小学生の頃の話でしょ!」

プツンとこめかみのあたりで何かが切れる音がした。
どすんとテーブルを叩くと、ハルが鼻で笑う。

「プロポーズされたの1回や2回じゃないけど」

ぐぬぬぬぬ。確かにあの頃の私はハルがうちに来る度にハルの膝に乗り『結婚してね」と言っていた。

そうだ。私は兄より優しくて兄より真剣に話を聞いて相手をしてくれるハルが大好きだった。
女癖の悪いことを知らないままでいたら、もしくは女癖が悪くなければ未だに好きだったかもしれない。

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