"さよなら"には早すぎて、"はじめまして"には遅すぎる
天井や壁の埃を落としきり、管理人が残してくれた掃除機で床の埃を全部吸い取り終わった。

一度熱中しだすと細かいところまで気になる性分は偏見とも言えるがA型故か、腕時計に目をやると十七時を指していた。

すっかり琴音の存在を忘れてしまっていたことに一気に冷や汗が流れ、慌てて縁側へ向かう。

開け放ったままの廊下の窓から体を出し、左右を確認するが琴音はいない。雑草一つ見当たらない綺麗な庭だけがそこにある。


間に合わなかったか。そりゃそうだよな。
三時間も経ってるんだから。


はぁー、と深くため息をついて縁側に足を放り出し、倒れ込んで顔を覆う。自分でも驚く程に残念だと思っている。


もう少し早く掃除が終われば手伝えたか?

………過ぎたことを考えても仕方がないがどうにも残念でならない。


「いや、隣だしいつだって。………つーか、礼言いにいくべきだろ」


起き上がると同時にカランカラン、と小気味良い音が聞こえてすぐ、冷たい物が頬に当たる。

思わずビクッと肩を揺らすとクスクスと笑う声が鼓膜を震わす。

「お疲れ様。暑かったでしょ〜?」

琴音は悪戯っぽく微笑んで、よく冷えたグラスを俺の頬から離す。

「麦茶は好き?」

「好きです」

「よかった」


はい、と手渡された麦茶を受け取ると自然と喉が鳴った。

そういえば一度も水分補給をしていなかった。


「いただきます」


よほど喉がカラカラだったのか、冷えた麦茶が一口喉を通れば止まらず、一気に飲み干してしまった。


すぐに横からピッチャーが差し出され、注いでくれた。少し恥ずかしく思いながらも受け取り、今度は半分まで飲んだ。


「水分摂るの忘れてたでしょ?」

「うっかり忘れてました」

「すっごい集中してたもんね〜」

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