"さよなら"には早すぎて、"はじめまして"には遅すぎる
大洋は何も言わず、食べ進めた。
何か返事をしてくれよ。
じゃないと静かすぎて、せっかく料理が美味しくても息苦しい。
「洋ちゃんって何をさせても器用なの。昔から、私が一生懸命頑張ってできるようになったこともあっさりできちゃって。憎たらしいったらないの」
大洋が拾ってくれなかった会話を琴音が拾ってくれた。俺はホッと息を吐き出しながら「何となくわかります」と言う。
大洋と言う男をほとんど知らないけれど。
例えば大洋以外の人のスタートダッシュがどれだけ早くても簡単に追いついて、追い抜いて、置いていってしまうような、そんなイメージが簡単に湧く。
琴音をちらっと見る。
彼女はなんでも一生懸命にやって、置いていく彼を追いかけるような、そんなイメージ。
「町田くん、ご飯とお味噌汁のお代わりいらない?まだ沢山あるの」
胃の容量はまだまだ空いているが、空気感に耐えられず空腹感はない。人間って不思議だ。
けれど、先にそう言われては断るわけにもいかない。
大洋の分の食器も持って彼女は台所へ行ってしまった。
初めてまともに二人きりになる。
沈黙に耐えていた方がいいことはわかっていたが、それが怖い。
「急にお邪魔しちゃって、すいませんでした」
「どうせ琴音が無理言ったんだろ。こっちの責任だ」
台所にいる琴音に呆れた眼差しを送り、眉間のシワを伸ばし始めた。
こういうことはしょっちゅうなのか気苦労が見えた。
「あのさ、一個、ずっと気になってたことがあんだけど」
「なんですか?」
「すみませんって言ってみ」
「へ?」
急に、なぜ。
俺は困惑しながらも「すいません」と言う。