"さよなら"には早すぎて、"はじめまして"には遅すぎる
「来年就職か?」
「いえ、来年で三回なんですけど、その予定はないです」
「じゃあ、今の内に直しておいた方がいい。ずっと"すいません"って言ってるが、正しくは"すみません"だ」
「……す、すみません」
気づかなかった。
ずっと"い"で使っていた。
年上に使う言葉として正しくなかったかもしれない。でも、それなら大洋の方がよっぽど口が悪いのだが。
ちょっと納得はいかないが、これまで怖かった大洋が少しだけ怖くなくなった。
「洋ちゃんがそれを言うの?ごめんね、町田くん」
戻ってきた琴音がそれぞれの前に大盛りのご飯とお味噌汁を置く。「この量どうやって食べ切るんだよ」と、大洋が呟いた。俺も同感だった。
「いえ、教えてもらえて良かったです。これから気をつけます」
「いい子すぎる。洋ちゃんも外では愛想いいのにね〜」
今のところ全く想像できない。
だが、社会人としての外面はあるのか。
……もしかして、だからこそ教えてくれたのか。
社会に出たら困るぞ、みたいな。
「家で愛想振りまく必要がどこにあんだよ?」
「い・ま!あるでしょ!」
「相沢さん、俺のことは気にしなくて大丈夫ですよ」
大洋に慣れてきたというのもあるが、なんだかさっきの一件でもうなんだっていい気がしてきた。
もうお前と呼ばれようがテメェと呼ばれようがなんだって受け入れますよ。
それの方が無視されるよりはよっぽどマシだ。
「そういえば、さっきスーツ着てましたよね?なんか、しっかりした感じの。お仕事だったんですか?」