"さよなら"には早すぎて、"はじめまして"には遅すぎる
本当は平松に何故相沢家から出てきたのか聞かれてドキッとした。
やましいことは何もない。
夫婦は揃っていたし、本当にただ一緒に食事をしただけ。
何も後ろめたいことはないのに。
この気持ちだけが正しくない。
誰だって詮索されれば不快になるけれど、俺は怖かった。
好きになってはいけない人を好きになったことが露見してしまうのも、それで琴音が誤解されるようなことがあっても。
俺の気持ちがままならないせいで誰かに迷惑をかけるかも知れないと、気づいた。
不快感を感じたのは、平松のせいだけじゃなく自分自身にも感じていたのだと思う。
してはいけない、と思えば思うほど人は惹かれるもので、ドツボにハマって身動きが取れなくなる。
また千葉崎のいう通りだ。
一ヶ月避け続けてもどうにもならなかった。
その時点でどうしようもなかったんだ。
だからといって、人様の幸せをぶち壊すような最低な奴に成り下がりたくはないし、そうなるつもりもない。
時間が経って、心がもういっか、と飽きてくれるのを待つ。それか、誰か他にいい人を見つける。
すぐに、大学の友人に合コンの手配をお願いすれば真夜中だったのもあるが、普段から合コンに興味のない俺からのメッセージに、次の日、友人から心配そうな電話があった。
「変なものでも食った?」と。
食ってない。
美味しいものはめちゃくちゃ食べたけど。
至って正常だと訴えるのに時間はかかったが、最後には「よっしゃっ!任せろ!」と、いう友人に俺はちょっとだけ不安になりながら念を押すように言った。
「よろしく」