"さよなら"には早すぎて、"はじめまして"には遅すぎる


「これから先、お前のことを好きになれるか分からないけど、それでもいいなら付き合おう」

我ながら最低なことを言っている自覚はある。
だけど、少しでも誠実さがあるようにじっと彼女の目を見つめ、言葉を待った。

困惑したように俺を見つめ、いまにも泣きそうな酒井がか細い声で「さっ、き断ったくせに」と言う。

本当に。
さっき盛大に振った男の台詞とは思えない掌返し。
戸惑うのも無理はない。


「相沢さんを忘れるために私と付き合うってこと?」

「それもあるけど。お前と疎遠になりたくねーんだよ」

「………何それ」


酒井の顔が真っ赤に染まる。怒っているような、恥ずかしそうなどっちとも取れる。

だけど、なんとなく後者なんだと思う。

彼女がそんな顔をすることを知ったのはほんのつい最近の話。好きだと言われて初めて知った。

千葉崎は知っていて、俺は知らなかった。
ずっと一緒にいたのに、きっともっと沢山知らないことがある。

そんな彼女を知りたいと思った。


「もうどうせ戻れない関係なら、ちゃんと酒井を知りたい。……ダメか?」

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