"さよなら"には早すぎて、"はじめまして"には遅すぎる


「そんなの、私がダメって言えるわけないじゃん」


もう意味わかんない。そう言って彼女は顔を覆い、本格的に泣き出してしまった。

俺だってわけわかんねーよ。

誰とも付き合う気なんて本当はなかったことに気付いて、その直後に告白されて、振って。

振ったくせに知りたいとか、こんなんでお別れになるのは嫌だとかそんな感情が湧いてきて、俺だって困惑している。


困惑しすぎているせいか。
酔いすぎたせいか。

判断能力が鈍ってるんじゃないかとさえ思える。


普段はスポーティな格好ばっかりで、オシャレよりも動きやすさを重視して、素直じゃないし、可愛げないことばっかり言うし、正直男友達と接するような気持ちで接していた。

そんな彼女を………不本意だが、可愛いと思う日が来るとは思わなかった。

……本当に自分のことなのに、自分の気持ちがままならない。


「なんかもう、今日は疲れたから寝る」

「ちょっと!なんで私を引っ張ってんのよ!」

「お前がこんな夜中に一人で帰ろうとするからだろ!なんもしねーからさっさと寝ろ!」


酒井をベッドに放り込み、奥へ追いやる。なるべく触れ合わないようにベッドの端に寄ってシーツと毛布を引っ張った。

俺が手前にいるせいでベッドから降りれないし、毛布が重くて身動きもし辛い。二人で寝るには明らかに狭いシングルベッドで少しでも動けば触れてしまう。

それを分かってか、酒井は身動き一つせず大人しくなった。


もうすぐ終電が無くなる。
帰る手段が無くなるまでは仕方ない。
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