"さよなら"には早すぎて、"はじめまして"には遅すぎる

壊れてしまったこの関係はもう元には戻らない。
戻ったとしても互いに時間が必要で、それは途方もなく長い時間かもしれないのだ。

どうせもう戻れないなら。
そう考えると一つだけ思いつくことがあった。

一か八かの賭け。
それこそ、もう友達になんて戻れないけれど、少しでも酒井を繋ぎ止めるだけの応急処置みたいなもの。

「見ての通り、酔った男がこれから一つ最低な提案をするから聞いて欲しい」

体はまだ酔いが回っているけれど、彼女から告白された驚きでとっくに頭は覚醒して眠気も酔いも醒めつつあった。

けれど、酔っているということを言い訳にする必要がある。


「これまで、お前のことをそういう目で見たことがないし、今俺には好きな人がいて、他の人には全然惹かれない」

「分かってるから、これ以上傷を抉らないでよ!」

涙声になった酒井に内心ドキッとしながら、俺は手を振り解かれないように必死で力を込めた。

「俺はこの想いを断ち切りたいんだ」

一寸の隙間もない、不毛なこの恋は誰の得にもならない。普通に隣人として接していければそれが一番良い。

あれだけ合コンに参加して誰にも惹かれなかった。
連絡を取り合うようになった子もいたけれど、結局は付き合う気になれなかった。


それなのに、今、その手段を使おうとしている。
はっきり言って卑怯だし、最低だ。

それでも、どうしてだろう。

酒井とこれで"さよなら"をするくらいなら、どんな関係でもいいからそばにいて欲しいと思う。


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