"さよなら"には早すぎて、"はじめまして"には遅すぎる
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「今年の夏も向日葵?」
お風呂上がりの大洋にアイスティを渡しながら聞く。
何気なくを装って、普段通りに。
受け取ったアイスティを口に含んで一息つき、琴音を見る。
しばらく、じっと見つめあってから「そうだ」と彼は答えた。
「私ね、毎年あの花壇一杯に咲く向日葵を見るのが大好きなの。今年も沢山咲くといいね」
「………一つも枯らさねーから今年も見れるだろ」
彼のいう通り、琴音がこの平家に来てから見頃を迎えるまでに向日葵が枯れたところを見たことはない。
毎年一本だけ枯れた姿を見るけれど、それは見頃を終えた向日葵だ。
一つも枯らさないとは言うけれど、気温や天候の影響は自然のもの。人智を超えた力は予測がついたとしても抗えない時は抗えない。
それでも彼は枯らさないと言うのだろう。
それを分かっていても心の奥の黒い部分が溢れ、つい意地の悪いことを言ってしまう。
「わかんないよ?もしかしたらってことも」
「絶対に枯らさない。何があっても、絶対に」
琴音の発言を掻き消す勢いで強く言う大洋。
怒った言い方ではないけれど、言い聞かせるような言い方だった。