"さよなら"には早すぎて、"はじめまして"には遅すぎる
「これ、相沢さんから」
保冷剤入りのタオルを渡し、伝言も伝える。
酒井の手は赤くなっていた。
それだけの力で振り払われたということだ。
「相沢さん、大丈夫だった?……すごい震えてたし、とても手が冷たかった」
「顔色は悪いままだったけど、大洋さんがいたら大丈夫って言ってたから何とかしてくれると思う」
「そっか。放って置いたらダメな気がしたけど、私が行ったら余計に悪くさせそうだったから悠介に任せちゃったけど。側にいてくれる人がいるなら安心だ」
「……そうだな。それより、手の方は?痛みとかないのかよ?」
「私は大丈夫。これもあるし」
赤くなった手に巻き付けられたタオルは結んでいるわけではないので緩い。
手が痛まないように気を配りつつ、タオルを手に結ぶ。
その時、キンキンに冷えた保冷剤に手が当たり、顔面蒼白だった琴音の姿を思い出した。
酒井は後ろに立って手を伸ばし、声を掛けただけだ。
それだけであの反応は普通ではない。
それが異性からが怖いというなら分からないこともないが同性である女性にそうされると怖いなんて、過去に余程のことでもなければそうはならないはずだ。
あの細い腕からは想像もつかないような力があのたった一瞬に働くほどの何か。
それなのに彼女は何一つわからないと言った。
ザワザワと胸が騒ぐ。
いつからだろうか。
何かを見落としたような、何か聞き漏らしたような。
見過ごしてはいけない何かにまだ気付いていないような。
違和感をずっと抱えている気がする。