"さよなら"には早すぎて、"はじめまして"には遅すぎる
前に来た時と同様に公園は時が止まっているかのように静かで、平松と俺以外には誰もいない。
マルちゃんさえもいない。
平松は日陰に入ったブランコに座っていた。
「お待たせしてすみません」
「私が無茶を言っているのだから気にしないで」
隣のブランコに腰をかけ、彼女が話し出すのを待った。
梅雨明けのジメジメした期間はもうとっくに過ぎ去り、体感温度はマシになったが本格的な夏を前にした日差しは少しずつ強くなってきた。
今は夕方近い時間のおかげでそれもほとんど感じられず、時折過ぎ去る風が心地いい。
風が止み、彼女は言った。
「先月、マルちゃんが天国へ行ったの」
白くてフワフワしてよくあの砂場でコロコロ転がっていたマルちゃん。体は年齢相応であったが春に最後に会った時はまだ元気そうだった。
だが、マルちゃんを子供のようだと言った彼女がその子供を置いて一人で外出はしない。
平松が家を訪ねてきた時点で薄々そうではないかと思ってはいたが、そうであってほしくはなかった。
横から見た彼女は前に会った時よりも肌に艶はなく、少しだけやつれていた。
「いつものように膝の上で抱っこしてのんびりしていたらそのまま眠ってしまったわ。ずっと撫で続けていたからその瞬間はよく分かった。あぁ、別れの時だって」