"さよなら"には早すぎて、"はじめまして"には遅すぎる
「残念ながら君はよく知りもしないおばさんの重苦しい話を聞かされる犠牲者に選ばれてしまったの」
一呼吸おいて、平松が口を開く。
謝られると思った俺は謝らせまいと先に口を開いた。
ここで謝らせてしまうと、この先、彼女は話したいことを話せなくなってしまう気がした。
「平松さんの話、俺が事故に遭うか病気になるかくらいしないと忘れられそうにないくらい確かに重苦しいですけど、犠牲になったなんて思いません。ガキだから何にも言えないのが歯痒いだけなんで。それでもいいなら続きを話してください」
自分で思うのもどうかと思うがそれなりにまともなことを言ったはずなのに平松は声を上げて笑った。
「町田くんはいい子すぎるわね。ありがとう」
それから彼女は旦那へのちょっとした仕返しをする理由を話し出した。
もしも、事実上の不倫や実質嫁の交代、子供の存在、その他諸々が本当に許せなかったとしたら三年前にこの家から出て行っている。
古臭い慣習と思うけれど世襲制の会社に嫁いでしまった平松は全部仕方がないことだと思った。
平松の実家も軌道に乗っているしここで御役御免を言い渡されたらそれに従うのみだ。
だが、そうはならず、時だけが過ぎた。