"さよなら"には早すぎて、"はじめまして"には遅すぎる


「これ、俺が聞いていい話なんですか?」

上品なマダムそのものを表す彼女からそんな過去が話されるとは思わず、最後まで聞いてしまっておきながら今更だが、まだ出会って間もないしがない大学生が聞くにはあまりにもディープな話だ。

「こういうのは案外お互いのことを知らない人の方が話しやすいのよ」

「でも、俺にはなんと言ったらいいかのか分かんないですよ」

そこはもう正直に言うしかない。
今の時代に政略結婚という概念も薄れているし、子供はおろか結婚すらまだ考えられない大学生には何もいえない。

「何も言わなくてもいいのよ。聞いて欲しいだけ。経験値なんて問題ないの。若い子は常に新しいものへと流れていくからいつか私との会話なんて記憶の彼方に消えていくだろうし、もし誰かに話されたとしても同じこと。若いうちは新しいものが次から次へとやってくるからその場限りの話なのよ。逆に、私みたいなおばさんの年齢だと噂話が趣味みたいなところがあるから共感できることはあっても人の家庭話なんて永遠に話されて広められるからたまったものじゃないわ」

「そういうものですか?」

「私の年代がってこともあるけど、女ってそういうものよ。あの家よりはマシだとか、結婚や子供の有無で人を哀れんだりするの。だから、総合的に町田くんみたいな人の方が話しやすいのよね」
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