"さよなら"には早すぎて、"はじめまして"には遅すぎる

「ない!!」

睨んでくるが、何だか照れ隠しのように見えてしまう。それはちょっと面白くなくて「でも俺以上にちゃんと見てんじゃん」と煽るようなことを言ってしまう。

「それは……観察力が足りないんじゃない?」

「なんだと〜」

その瞬間、ワーッと歓声が上がり、二人してコートに目を戻す。ちょうど千葉崎がスリーポイントラインを決めたところだった。

誰にも邪魔されない軌道で、ゴールのどこにもぶつからずネットの中に入り込むボール。

ただのお遊びの試合なのに上手すぎる。

いつもヘラヘラしているのにこういう時の千葉崎は男から見ても本当にかっこいい。

コートの端では千葉崎に気がある後輩達が黄色い声を上げて飛び跳ねていた。


「あいつ、モテるのにどうして莉乃ちゃんと付き合ってるんだろう」

呟くように小さな声だったので、きっと隣にいなければ聞こえなかった。

「そりゃあ、あいつがベタ惚れしてるからに決まってる」

会うたびに聞かされる惚気。
たまに原田も交えて遊ぶ時も砂糖を常に口の中に注がれるような気持ちで彼らを見なければならない。

そういえば、最近惚気を聞かされていない。


「まぁ、そうだよね」

「なんだよ?」


なんだか意味深な言い方をする酒井だが、その顔は暗く、険しい。

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