"さよなら"には早すぎて、"はじめまして"には遅すぎる


相沢夫妻は系統は違えど、どちらもそんじゃそこらでは出会えないような美人夫婦だ。

お人好しで優しく、天然っぽいところがあり、抜けていたりもして少しばかり危なっかしい妻の琴音と、いつ見ても眉間に皺を寄せていたり眼光が鋭く、少々態度も口も悪い夫の大洋。

琴音はとても分かりやすく大洋への思いを前面に出しているが、それは大洋も同じで彼女に向ける視線はいつも優しく、普段は口も悪いのに彼女に対してだけは柔らかい感じがする。

互いのことをとても大切にしていることは目に見えていて、こんなにお似合いな夫婦もそうはいないと思っていた。

まさか、大洋はバツイチで奥さんと子供と死別していたなんて思いもよらなかったけれど、それを聞いた今でも俺はとても似合いの夫婦だと思っている。

それなのにどうしてこうも違和感が拭えず、胸がざわつくのか。

夫婦には夫婦の事情がある。
赤の他人が踏み込める話ではない。

だけど、着実に俺は近づいてはいけない何かに近づいている気がする。


頭の中で平松の声が聞こえた。

『何だか、私みたいな人に巻き込まれて苦労しそう』と。


そうかもしれない。

思えば最初から違和感を感じていたけど、相沢夫妻と一緒にいるうちにそれは気のせいだと思い始めて今日に至る。

最初からずっとどこかおかしいと本当は気付いていたはずだった。俺はもうずっと前から巻き込まれていたのかも知れない。

本能的に、多分、初めて会った時から気づいていたのかもしれない。

美人で優しい隣人。

彼女には底知れない闇がある。


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