"さよなら"には早すぎて、"はじめまして"には遅すぎる
「それ、同じような立場の酒井がいうの?」
試すような視線を送られ、絵里は思わず黙った。
確かに、悠介は現在、隣の家の人妻に惹かれていて、絵里に振り向きそうな気配が全く感じられない。
不毛な恋に辛いと思うことはしばしばあるけれど、そもそも他に好きな人がいてもいいからと言ったのは絵里の方だった。
別れる気がないという意味では栄太と同じ立場だ。
とはいえ、悠介は想いを寄せているだけで、それは心の問題であって自分でコントロールできるものじゃないし、倫理的に反する行為はしていない。
莉乃は明らかに間違ったことをしてしまっている。
(それなのに、許すの?)
絵里には考えられなかった。
真面目な悠介がそんなことをするとは思わないが、もし万が一、彼が足を踏み外すようなことをしたならばきっと許さない。
その時こそ、今の関係に終止符が打たれてしまう時かもしれない。
栄太は莉乃のことを許しているみたいだが、絵里は彼の弱った姿を見てしまっている。
だったら出せる答えとしては一つだった。
「助けてほしいって思うくらいなら、別れた方がいいと思う」