"さよなら"には早すぎて、"はじめまして"には遅すぎる
何の返答もないので顔を上げれば、何故か酒井の顔がほんのりと赤かった。
「熱でもあんのか?」
「な、ないない。今日人多いからあっついんだよ!それよりさ!悠介が作ってよ」
「えーめんど」
「作って!!」
「……分かったよ、待ってろ」
どうせ、動けるやつはもう殆どいないしな。
生地をワッフルメーカーの中に流し入れ、出来上がるのを待つ間に載せるフルーツの準備をしようとクーラーボックスを開けた。
「酒井ちゃんなの〜??めっちゃ可愛くなってんじゃん!!」
同じサークルの女子が酒井の姿を見て驚きの声を上げていた。わかる。俺も驚いた。
頷いていると、さっきまで疲れ果てていたはずの男子が一気に息を吹き返し、受付へと集う。
本当に調子のいい奴らだ。
呆れつつ、一人黙々と苺のワッフルを作るのだった。
「ちょっ、悠介!こいつらどうにかして!」
連絡先を交換しようとかなんとか、さっきから聞こえてきたが酒井は全て断っていた。今はもうげんなりとしている。
「はいはい、できたぞ」
紙皿に乗せたワッフルを運ぶと、じっと学部の友人たちの視線を感じる。酒井へ無事手渡せたタイミングで肩をガシッと掴まれた。
「おい、まさか悠介、抜け駆けか!?」
「ちげーよ!高校のクラスメイト!サークルの同期!」
「なんだよー」と、ホッとしたような声が聞こえてくる。だが、酒井が迷惑していることを伝え、なんとか離れてもらうことにした。
「ちょっと町田君!!」
少し離れて待っていた酒井の友人が何故か目を吊り上げて睨みつけてくる。今度は何なんだ一体。
「今日の絵里になんかないの!?」
「なんかって、」
絵里こと、酒井と目が合う。
酒井は何故か目を逸らした。
……感想を言わなきゃダメなのか?