"さよなら"には早すぎて、"はじめまして"には遅すぎる
ちらっと助けを求めるように友人に目配せしたが、口パクで「がんばれ」と言われただけだった。
何を頑張るっていうんだ。
とりあえず、言葉を思いつく限り思い浮かべる。
いつもと違うな、は見てわかることだし。
馬子にも衣装だな、は千葉崎の運命を辿りそうだし。
もっと単純でストレートな言葉は思いついている。
だが、恥ずかしくて言いたくない。
俺は褒めるのが下手な日本人なんだよ。
「〜〜っ。酒井ってそんな格好もするんだな!」
は?という心の声が界の友人の視線から感じられる。
わかってる。分かってるって。
「流石に、他大の文化祭だし。たまにはね」
未だ目を合わさないが、まだ口にしていなかったワッフルを口に入れた。口に入れた瞬間、幸せそうに噛みだした。
さっきまでちょっと不機嫌だったくせに、ちょろい。
ふっ、と思わず笑ってしまう。
なんかちょっと、可愛いじゃないか。
恥ずかしいから絶対言わないけど。
だが、他の言葉は思いついた。
「なぁ、酒井。それ、似合ってんな」
酒井の動きが止まる。彼女の友人は「あぁん?」と少々物騒な顔をしている。
これが俺の限界だ。許せよ。
……そもそも、何で俺に言わせるんだ。
しかも、酒井からの反応はない。
少しくらい反応してくれてもいいだろうと、顔を覗き込めば、顔が真っ赤だった。
「本当に大丈夫か?」
「暑いだけだから!」
何だかそれが強がっているようにも見えるのだが。
元気には見える。
どうしたものか。
周りを見ればまだ氷嚢を頭に乗せている奴もいて、その案を借りることにした。クーラーボックスから氷嚢を取り出し、酒井に差し出す。
「とりあえずこれで涼をとっとけ」
「……ありがとう」