溺愛婚約者と秘密の約束と甘い媚薬を
20話「優しいお説教」





   20話「優しいお説教」





   ☆☆☆


 

 彼との出会いを思い出してしまい、風香は大きくため息をついた。


 「大丈夫?何かあった?」
 「あ………」
 「大きなため息だったね…………何かあった?帰ってきてから元気ないし」
 「ううん。………何でもないよ」
 「風香ちゃんの方から、迎えに来てほしいって言われたから驚いたんだ。嬉しかったけど………そんな不安そうな顔してるのみたら、俺はすぐわかるよ。理由を教えてくれない?」


 いつもならばタクシーで柊の家まで帰っていたけれど、今日は一人で外に出るのが不安になってしまい、柊に連絡してしまったのだ。
 けれど、理由は伝えずに「買い物がしたいから」と、言ってお願いをした。
 だが、彼と一緒に家に帰っても考え事ばかりしてしまい、その変化に柊はすぐに気づいてくれたようだった。


 「………怒らない?」
 「それは内容によるかな」
 「じゃあ話さない」
 「嘘だよ!怒らないから、話してごらん」


 柊はクスクスと笑ってそう言うと、ぽんぽんッと風香の頭を撫でた。
 リビングのソファで寄り添ってテレビを見ていたが、柊はテレビの電源を消して、風香の方を見つめてくれる。「大丈夫だから」と、言わんばかりの優しい笑顔で風香の顔を覗き込む。
 その表情を見てしまったら、黙っている事など出来ない。
 元彼氏の話をするのは、あまり気が乗らなかったけれど、彼に話しをする事にした。


 「今日、お弁当を持っていくのを忘れてしまって、お昼過ぎに外に出たの」
 「え………そうなの!?」
 「うん。あ、でも近くのコンビニだけだよ?」
 「でも、そこに行って何かあったって事だよね?」
 「う……それは……」



 彼の目と口調が鋭くなり、風香は思わずたじろんでしまう。
 その表情を見ると、彼が警察官だと思い知らされる。まるで、優しく尋問されているようだった。その笑顔には少しの怒りさえも感じられ、風香は内心で「怒らないでって言ったのに」と、思ってしまう。




< 101 / 209 >

この作品をシェア

pagetop